Replica * Fantasy







閑 話 編 01




Exists as her world is very simple.
―彼女の世界はとてもシンプルに廻っている―










、オスカー・フォン・ロイエンタールとウォルフガング・ミッターマイヤーだ。近々元帥府に招くことになっている。」
「オスカー・フォン・ロイエンタール?えっと、金銀妖瞳で噂に名高いプレイボーイの方ですか?」


 素直に肯定するには些か抵抗のある言葉を、は平然と口にした。
その言葉は決して相手を侮辱した響きではなかったが、常識的な礼儀の範囲を逸脱していることも確かであり、二人の保護者は思わず溜息をついた。
同時に、普段人前では完璧な令嬢を崩さないが、こんなにも素を表したことに、多少の驚きを覚えていた。
 普段であれば、は初対面の相手や年上の相手に対して、敬称を欠くことはまずありえない。
自分たちがそれを省いたとしても、軍服を着ている相手であれば階級は明らかだからだ。
 それらがすっぽ抜けるくらいに、がロイエンタールに興味を抱いたとなれば、些か心穏やかではいられないが―なにしろ相手は漁色家で名高いあのロイエンタールだ―、
とりあえずラインハルトとキルヒアイスは一般常識の範囲でをたしなめた。


…」
、口を慎みなさい。失礼しました、ロイエンタール少将。」
「いえ。」


 思わず溜息をついたラインハルトの横で、キルヒアイスがフォローを入れる。
それ以外にどう反応しろというのだ、という表情でロイエンタールは短く答え、自分をまじまじと見つめる少女を見やった。
 の言葉は事実であるし、自分に近寄ってくる女の大半が同じ言葉を吐くので、の発言に対してもロイエンタールは深く捉えなかった。
 自分の浮名を知っていて近付いてくる女の殆どが、媚を含んだ言葉であるのに対し、の言葉は同じものでも、純粋に疑問を含んでいる響きで聞こえたせいでもある。
 流すことが出来なかったのは、その言葉よりもむしろの視線の方だった。
は酷く興味深そうに左右で色の違うロイエンタールの眼を凝視している。
何となく、逸らすのも憚られて見返していると、自然と僚友や上官を無視して、一回り以上幼い少女と熱烈に見詰め合うような形になってしまうわけで。


「おい、ロイエンタール」


 ミッターマイヤーはそんな親友をたしなめたが、ロイエンタールのほうはそれをあえて無視した。
子どもっぽいとは思いつつも、眼を逸らしたら負けのような気がしたのである。
 ロイエンタールは、この機を好機とみなしたのか、様々な噂の渦中に立たされた美貌の侯爵令嬢を観察していた。
 確かに美しいが、どこと無く足が宙に浮いているような印象を受けるのは、間違っていないだろう。
 しかし、有能な人材を好み、無能なだけのものは最初から相手にしないラインハルトとキルヒアイスがこれほどまでに構うのだから、印象どおりの存在ではないのだろう。
そんな風にのふわふわした印象が抜け切らないものだから、よからぬ者は様々な意味でを丸め込もうとする。
だからこの上官も僚友も、過保護と取れるほどにに構うのかと、勝手に結論付けたところで、ロイエンタールは軽く溜息をついた。
ところで、この娘はいつまで自分を見ている気なのだろうか。


、いい加減にしろ。」


互いの不躾な視線に、むしろ肝を冷やしたのは周囲だったようで、特に、ロイエンタールの深刻なトラウマを知っているミッターマイヤーは、親友の機嫌が急降下するのではないかと思ったようだが、それを知らないラインハルトとキルヒアイスは、あまりにも熱心にロイエンタールを見つめるに、まさかの一目惚れを危惧しはじめている。
 二人の保護者の、明後日の方向に向いた危惧を知る由もなく、は酷く真面目腐って誰に向けるとなく呟いた。


「ロイエンタール少将は、金銀妖瞳とお聞きしていたのですけれど、聞き間違いでしたかしら?」


 小首をかしげる姿は、それはそれは愛らしいのだが、その言葉をすぐに理解できたものは一人も居なかった。
言われたロイエンタール本人はといえば、「いきなり何を言い出すのだ、この娘は」と、呆れた表情を浮かべている。
 見れば分かるだろうという言葉は、を思ってか誰もが口にしなかったが、揃って困惑したのは無理も無いだろう。


「…小官は、紛れも無く金銀妖瞳だと認識していますが。」
「ですけど、ロイエンタール少将の眼は、黒と青に見えます。左右で別々の色なんて、それだけでも贅沢ですけれど、金銀妖瞳とは違うのではありませんか?」


 返答に困った挙句、ロイエンタールが答えると、は更に理解に苦しむといった表情で問い返してきた。
此方の方がよほど理解に苦しんでいるのだが、で酷く困惑している。
しかし、ロイエンタールもミッターマイヤーも、が何故これほどまでに困惑しているのか、皆目見当がつかなかった。
 従って、黙しての視線を受けているしかなかったのだが、彼らよりもの思考回路の突飛さについて、多少なりとも耐性があったラインハルトとキルヒアイスは、揃って一つの結論にたどり着き、未だロイエンタールを不思議そうに見つめているに問いかけた。


、念のために聞くが、『金銀妖瞳』をどういうものとして認識している?」
「まさかとは思うけど、左右の眼の色がそれぞれ金と銀だなんて、思っていないだろうね?」
「え、違うの?だって金銀妖瞳なんでしょ?金と銀の、妖しい瞳じゃないの?」


 殆ど確信を持って問いかけた言葉に、は期待を裏切ることなく即答した。
一体この娘は、ロイエンタールのことをなんだと認識していたのだろう。
 後日、語ったミッターマイヤーに寄れば、その時の元帥とその側近の表情は相当見ものだったらしい。
 酷く驚いてラインハルトとキルヒアイスを見上げたときのは、噂に聞く美貌の侯爵令嬢ではなく、歳相応の少女の表情をしていて。
 思わずミッターマイヤーとロイエンタールが噴出せば、ラインハルトとキルヒアイスは苦い表情を浮かべ、自身は何に対して二人が笑っているのかまったく分かっていないように、きょとんとしていた。






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2007/09/03 



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