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星を砕く者編 11




Sing me of a story never ever told in the past
―今まで何処にも無かったような物語を歌ってくれないかな―





結局、新無憂宮に留まることを余儀なくされたは、広大な敷地の東苑に滞在の場所を用意された。
 後宮と称される西苑も、皇帝の生活の場でもある南苑も、様々な意味でが滞在するには問題があったし、狩猟を目的に作られた北苑はそもそも生活の場には向いていない。
8割の消去法と2割の皇帝のわがままにより、は東苑にある政治の中枢機関が集中しているあたりの、さらに軍務尚書の執務室に程近い部屋を与えられたのだった。
皇帝の嗜好と偏見によりお咎めなしになったとはいえ、本来であれば大逆の罪で処刑されてもおかしくは無い身である以上、形式だけや一定期間であっても監視を付ける必要性があったし、犯人が分かりきっていても爆破事件の調査をしなくてはならない。
当事者として、は何度も同じ話をするハメになった。
 もちろん、本当に必要であれば協力は惜しまないのだが、何分部屋に訪れるのは貴族の予備役軍人ばかりで、それだけで彼らの目的が事情聴取以外のものであるとは直ぐに分かってしまう。
興味本位でも事件のことを聞いてくる者はまだマシなほうで、彼らの殆どは社交辞令から始まり、本人達は気が聞いたと信じて止まない選民意識に毒された会話ばかりがなされた。
も、身分こそ侯爵家であったが、人生の3分の1を下町で過ごし、残りも社交界から蔑まれてきたせいで、幸運にもそういった思考回路とは無縁に育ってきた。
もちろん自覚あってのことではないが、だからこそ、今までの一方的な嫌悪から掌を返して近寄ってくる貴族のドラ息子達を、冷ややかな目で迎えていた。
 侯爵令嬢として待遇は十分すぎるものであったが、そうした状況の中で、が三日と立たずに退屈を持て余すようになっても無理は無かった。
 部屋には鍵は架かっていなかったが、だからといって好き勝手に歩き回ってもよい立場ではないことくらいは、理解している。


「陛下は、私をいつまでここに留めておくつもりなのかな?」


 僅かに首を傾げて、少しだけ考えてから、は何かを思ったのか、不意にぱたりと柔らかな布地が張られたソファに倒れこむ。
 不自然に背中から倒れると、贅をこらしたソファの材質のおかげで痛みは無かったものの、少しだけ息が詰まった。
こうして、仰向けになったは、不毛な時間を強制される羽目になった。
原因はよく分からないが、はこうして時々全身の筋肉が硬直したり弛緩したりして動けなくなることがあるのだ。
程度はその時々で異なるものの、酷い時には意識を失うこともある。
だらりとソファから垂れた腕が視界の端に入り、はのんびりと自分の状態の把握を試みた。
腕や足が、ゴムのようにぐんなりとしているところを見ると、今回は弛緩の方らしい。
呼吸が大して苦しくない事を考えると、
今日のところはどうやら運動系の筋肉までで留まっているようだった。
これなら1時間もあれば戻るだろうと、は早々に諦めて弛緩した体に残る僅かな力を抜いて、そのままソファに沈み込んだ。
ぼんやりと、無駄に豪奢な天井を見上げる。
誰もこんなところなどじっくり見ないであろうに、高名な画家の手による名画が並んでいる。
しばらくそれを鑑賞していたが、それにもすぐ飽きてしまった。
天井を見上げたまま、焦点が次第にズレてくるに任せて、見る事から考える方に頭を切り換える。
 あの日以来、ラインハルトもキルヒアイスもの部屋には尋ねてこなかったし、アンネローゼに会いに行くには皇帝の許可が必要なため、むやみに会いに行くことも出来ない。
 動けないという、役に立たないオプション付きの体で出来る暇潰しとなると、自然と限られて来るわけで。
紅く色付いた唇が薄く開くと、の細い喉から鈴を鳴らすような声が滑り落ちた。






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2007/08/04 



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